“ 汚れたくはないけれど、服を汚したくはないけれど、化粧をした顔に何かが付着するのは嫌だけれど、綺麗に洗った髪が、ブローした髪が、ワックスを付けて固めた髪が、濡れてぺったりしてしまうのは困るけれど、でもきっとそんな酷いことにはならないのだろう、そんな酷いことが起こるはずないだろう、だって、こんな、たかだか学生の展覧会で、何かが起こるはずなどない、何かって何だよ、ていうか美術でしょう、ていうか美術よく知らないけれど、そんな、私が、まさかこんなところで損なわれるなどということがあるはずがない、別にここじゃなくとも、滅多なことで、私が損なわれるなどということがあるはずがない、私は家に帰る、家を出たときの姿と寸分違わぬ形体で、私は家に帰る、1mm たりとも損なわず私は家に帰る、そんでご飯食べてテレビ見て風呂入ってまたテレビ見て寝る、私は何も損なわれない、ていうか損なってたまるものか、”
“ 安全だと信じて疑わぬ奴らめ、ちょっとした危険をアトラクションのように感じる奴らめ、すぐに写メを撮る奴らめ、現実感がない、温い覚悟しかないくせに、誰も自分を傷つけぬと思い込んで。今ここで、完膚無きまでに損なってやろうか。ぐちゃぐちゃに。汚辱をこうむれよ、自意識で死ね。でもそれは出来ない相談だ。通り魔でもあるまいし。”

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